アザルランコントルと銘打たれたここは、世間的に「普通」と言われる恋愛観に当てはまらない人が集まる場所だ。
ここを作った人物も、その普通の恋愛観に合わなかったが故にこんな大がかりな魔法がかかった場所を作ったのだろう。
元はと言えば数年前に届いたカギを使ってこの場所へ訪れ、ここを訪れる人、招かれた人、迷い込んだ人たちのルールについて、従業員のような役割をしている使い魔から聞いたから知っているだけでどんな魔法でどんな仕組みなのかは未だにわからない。
なんて、まぁお堅いように語りすぎると疲れてしまう。
端的に言うと同性愛者またはその素質がある人だけが訪れるハッテン場なだけ。
ヤる事メインな奴もいれば、ウブな恋愛をする奴もいるし、愚痴や雑談だけの奴も、なぜか世界中の様々な料理が食べられるから飯屋として利用している奴もいる。
ここ最近の俺も雑談や飯だけというのに該当するだろう。
「やぁヴォー、待たせたか?」
そう話しかけて来たのは数年前からの顔見知りであるエルフだ。金髪つり目でヒラヒラとした服のありがちなエルフという見た目の男はフンと鼻を鳴らして隣の席へ座った。
「飯食ってたから待ってはないな」
「へぇ。お前はいつも身体に餌付けされて楽しそうだ」
「あらーエルフ様はデュラハンをいじるのがお上手ですこと」
ムッとしたエルフを横目に「ごちそうさま」と食器を片すように店の使い魔にお願いをして頭の位置を話しやすいように調整する。不機嫌そうに机を指で叩くエルフに「本題」と話題転換をする。
「何日か前にアザルラにまた新しい奴がきてさ。聖騎士の人間なんだけど」
「あぁ淫魔の奴に聞いた。ホットミルクだけ飲んでたとか、厄介な魔族に話しかけられてたとか」
「それだよそれ、厄介な魔族って俺のコトなんだけど」
「だろうな。とことん責め立ててくる触手使いなんて搾り取りたい淫魔に取っちゃ厄介でしかないのに、本体使わないから餌も少ないもんな」
ただ満足させてあげたかっただけなのに…、と過去を振り返りそうになったがそんな話をしたいわけじゃない。
「話逸らすな」
「面白い話なら逸らさないさ」
「……騎士本人に厄介ってバレない程度に話しかけたいんだけどどうすればいいと思う」
「驚いたし無謀すぎて面白い」
「だろ」
そう言った内容の恋愛書物を読んだ覚えがあるな、とエルフは手帳を開き、聞き慣れない言語での呪文とともにページが捲られていく。
いくつかのページから文字が浮かび上がり、そのまま一枚の紙へと貼り付いて俺の身体へと手渡される。
見やすいように身体で首の位置を調整して紙の中身を覗き込むと、『正反対なタイプの相手との話題選び』のタイトルとリストアップされた様々な内容に膝を打った。おすすめのご飯や仕事の話を聞くなんて特に簡単そうだ。
「これぐらいなら俺にもできそう」
「表面を繕っても魔族らしさは消えないと思うけどな」
「長い魔族生だぞ、適度に遊べればそれでいいんだよ。とりあえず助かった」
「続報を楽しみにしている。私の小説のネタになるしな」
「りょーかい」
とりあえず次見かけたら話しかけてみよう。次会えるのはいつだろうか。と、ロロヴォーカはアザルラから夜の森へと出かけ、エルフの男はすぐさま今日の内容を手帳へと記した。